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山本由伸 筋トレをしない理由と、食事管理やプレッシャー対策
日本のプロ野球を代表するような投手としてメジャーリーグに渡り、アメリカでも大活躍を続ける山本由伸選手(1998年生まれ、岡山県出身)。
山本選手は、プロ入りは2016年、高卒(甲子園不出場)のドラフト4位でオリックスに入団。プロ初出場は2017年。山本投手が本格的に活躍を始めるのは2018年からで、2021年には日本プロ野球史上8人目の「投手5冠」を達成。
また、2021年開催の東京オリンピックでは、野球日本代表に選出され、金メダル獲得に貢献。メジャーでは、ワールドシリーズ優勝と、まさに世界トップクラスのピッチャーです。
身長178cmとメジャーのなかでも決して大柄ではない彼が、なぜ160kmに迫る剛速球を投げ、世界を制圧できるのか。
その秘密は、現代の常識を覆す独自のトレーニング理論と、徹底した自己管理にあります。
トレーニング哲学「筋トレをしない」
山本選手のトレーニングで特徴的な点は、「筋トレをしない」というものです。
アスリートと言えば、一般的にはウェイトトレーニングが重要だと思われるかもしれませんが、あれほどの成績を残しているにもかかわらず、山本由伸選手は、筋トレを一切しないトレーニングスタイルです。
山本選手と言えば、球速160kmに迫る、勢いのあるストレートが持ち味の一つ。
その豪速球を投げる山本選手が、一体なぜ筋トレをしないのか。その理由に関連し、山本選手自身は、インタビューで「柔らかさのなかに強さを求め、体をうまく使うため」と解説しています。
僕は、ウエイトトレーニングは一切していないですね。よく行っているブリッジはあくまでも(自分が取り組んでいる中での)1つで、柔らかさの中に強さを求める、体をうまく使う為のトレーニングとして取り組んでいます。
あえて筋肉をつける筋トレではなく、持っている力を最大限に発揮する「体の使い方」を重視するという哲学が、山本選手の筋トレをしない理由に繋がっています。
また、「筋肉ではない」「大事なのは重心の位置」と確信に至ったきっかけの一つとして、米俵を担いだ昔の女性の写真があります。
昔の女の人が米俵を担いでいる写真。担げるの?って思うじゃないですか。コツを知っているから持って運べる。人間にはそれだけの力があるはずなんです。トレーニングしているわけではないのに、生きるためにこういうことができる。じゃあ筋肉じゃない。自分の体の重心の位置を明確にすることが大事。力で持ち上げているわけではなく、うまく乗せている。投げるのも一緒だと思う。
人間が本来持っている力を引き出す体の使い方こそが、そのパフォーマンスの源泉になっています。
脱筋トレの身体観について
昔の身体観と今の身体観の違いとして、「生活のなかで培われたものかどうかがある」と指摘するのは、武術家の光岡英稔さんです。
光岡さんも、ウェイトトレーニングは一時期少し行なったきりで、見た目は強そうになってもまもなく怪我が増えたりと弱くなり、パフォーマンスにおいて逆効果ではないかと考えるようになります。
ハワイにいたころ、試しに2年間だけ当時最新式のトレーニングを徹底してやりました。始めた当初はやっていくうちに前よりもっと重たいものを持ちあげられたらいいぐらいに思っていたのですが、武術の稽古中に怪我をしやすくなりました。突き指したり、肩が脱臼したりと節々がどんどん弱くなる。
一般的には、ウエイト・トレーニングはいいと言われていたし、周りもそうだと言っていました。確かに見た目は筋肉がついて強そう見えていても、私の実感はそれとは真逆で身体がどんどん弱くなって行き気持ちも不安定になって行きました。
また、山本投手と同じくメジャーリーグに行き、長年活躍したイチローさんも、ウェイトトレーニングについては否定的な見解を持っています。
イチローさんの筋トレに関する名言に、「トラやライオンはウェイトしない」というものがあります。
トラやライオンは筋トレをしないでも力を発揮します。同じように人間にも、持って生まれた身体のバランスがあり、筋トレによってバランスが崩れてしまうことをイチローさんは指摘します。
このイチローさんの筋トレの考え方には、自身の体験も深く関係しています。
オリックス時代、オフにウェイトトレーニングを行って筋力を鍛えてシーズンに挑んだものの不振に陥ってしまい、当初は不振の原因が解明できずにいた。
しかしシーズンが進んでオフに鍛えた筋力が落ちるにつれて成績が向上。この時、鍛えた筋肉が邪魔になってスイングが鈍くなったことが不振の原因だと判明。以後、イチローがウェイトをしなくなったという。
光岡さんにしても、イチローさんにしても、筋トレによって力をつけることよりも、持って生まれたバランスや身体の使い方といったものが重要と考えている点では共通しています。
山本由伸選手も、根底は同じような身体観と言えるでしょう。
トレーナーとの出会い
山本選手がこのトレーニング哲学に至った原点として、プロ一年目、試合後の肘の張りがひどかった頃に出会った、柔道整復師でトレーナーの矢田修さんの存在があります。
矢田さんが最初に重要視したことが、「正しく立つこと」。なぜ正しく立つことが大事か、矢田さんは次のような言葉で解説します。
正しく立てない者は、
正しく歩くことはできない
正しく歩くことができない者は、
正しく走ることはできない
正しく走ることができない者は、
正しく投げることはできない
正しく立つには、正しい呼吸と集中が大切
こんな風に身体の使い方の基本に立ち返った上で、インナーマッスルに働きかけるようなエクサイズを行なっていきます。
ブリッジややりなげなどのトレーニング法
山本選手は、どういったトレーニング方法を取り入れているのでしょうか。
彼が実践する有名なトレーニング方法としては、たとえば、ブリッジややり投げなどがあります。
やり投げのトレーニングでは、「ターボジャブ」という短いやりに羽根がついたような道具を使います。
体全体の連動によって遠くに飛ばすことができ、ピッチングに使う身体の使い方を染み込ませることに効果的だと言われています。
フリーのコーチで元プロ野球選手の荻野忠寛さんは、ブリッジやフレーチャ(野球のやり投げトレーニングで使う道具)の効果について、次のように語っています。
ブリッジやフレーチャ、大きいボールを投げることは全部つながっています。胸郭が柔らかくなると、より投げられるようになりますからね。そうやって体全体で投げることを自然と覚え、さらにステップして投げることで体重移動を覚えていきます。
柔軟性や本来備わっている全体のバランスが大事で、このバランスを保ちながら、最大限にパフォーマンスを発揮させる、ということが重要ということでしょう。
山本投手も、こうした身体の改革の結果、球速も伸び、肘の痛みも一切なくなったと言います。
食事管理
トレーニングだけでなく、山本由伸選手は、食事管理にもこだわりを持っています。
山本選手は、サッカー日本代表の浅野拓磨選手の専属調理師も務めていた実績のあるシェフの菊池慶祐さんを招き、食生活や栄養の管理を一緒に行っています。
食生活を担当する菊池さんが考えたある日の食事のメニューは、玄米雑穀ごはん、お吸い物、牛フィレのグリル、温野菜、ビーツのゆずサラダ、炙り鯛と鰹のタタキ、茶碗蒸し、ヨーグルト。
当初、マッサージなど身体のケアについては気遣っていたものの、それでも軽い肉離れなどもあり、そのなかで山本選手が改善しようと考えたのが、食事でした。
食生活についてしっかり取り組むようになってからは、「疲労回復のスピードが速くなったと思えるようになったし、去年も一年間カラダに不安なく過ごすことができた。食事の大切さをすごく感じましたね。 やっぱり、カラダに直接入ってくるモノなので、今はトレーニングより大事だと思っています。(『Tarzan』でのインタビュー)」とその変化に手応えを感じています。
別のインタビューでも、きちんとした食生活こそ、よいパフォーマンスの源だと語っています。
今年、自分の中で大きく改善したのが“食”です。僕はここまで、肉離れなど筋肉系の故障をしがちでした。それを防ぐためにも、食べることから変えました。疲労回復にも“食”は大切なものだと気づいて、今年から専門の栄養士の方にアドバイスをいただくようになりました。昨年までも、鍋料理とかで野菜を摂っていたつもりだったのですが、甘かったですね(笑)。全然足りていなかった。想像以上に野菜を摂らないといけないことがわかりました。
なので、栄養士さんが食べやすいようなメニューに工夫をしてくれていて助かります。野球をやっていくうえで、食生活の重要性を再認識しましたね。……きちんとした食生活こそが、良いパフォーマンスの源なんです。
食事管理によって、故障なども減るなど、身体パフォーマンスの源が食なんだと感じたようです。
メンタルを保つ「思考法」
メンタルの強さでも知られる山本由伸投手。所属するチームの監督も、ワールドシリーズ優勝の際には、「これまで出会ったなかで最強の部類」と、そのメンタルを絶賛しています。
その背景にある思考法は、極めてシンプルで論理的です。
◯イライラしない理由: 結果が出ないのは「準備不足」の自分が悪いだけ。それなら次は準備の質を高めればいい。
◯プレッシャーの捉え方: 「打たれちゃダメだ」と自分を苦しめず、「打たれることもある」からこそ野球は楽しいし、成長もある、と「打たれること」さえも受け入れる。その上で「いつも通り」を心がける。
不確定な結果に一喜一憂せず、コントロール可能な「準備」に全精力を注ぐ。この地に足のついた哲学こそが、世界の大舞台でも動じない鉄のメンタルを支えているのでしょう。
参考 : 山本由伸(野球)「ウェイトトレーニングはやらない」(Tarzan)、「ウエイトトレーニングを一切しない」山本由伸は、なぜ大投手になれたのか? 才能を開花させた“常識外れ”の練習法とは(デイリー新潮)
